勝谷誠彦氏はなぜこんな愚かな文章を書いたのか?

結局2月は仕事とインフレエンザで終わってしまいました。
さて、たまたま目にした勝谷誠彦氏の文章に関して、多少の考察。


勝谷誠彦氏が「SPA」05年3月8日号の巻頭頁にて、「大地震南京事件」と題したコラムを発表している。リードには「津波の犠牲者30万人。同数の遺体を南京市内に埋めたらどうなるか?」とある。
勝谷氏の発言を引用する。

南京市の城壁は総延長34キロ。数キロ四方の街の中にスマトラ沖地震で生じた遺体全てを入れたらどうなるか。それこそ枡に遺体を盛ったような状態であり、それが事実であれば前代未聞の光景としてその様子はもっと世上に流布したであろう。
以上、遠慮がちに言ってみた。読者諸兄の想像力を喚起するためである

これは旧東京市内で30万人死んだとして、山手線の中に30万人遺体を入れたらどうなる?と述べているのに近い。旧東京市には隅田川河畔もあれば荒川河畔も佃島大森区蒲田区もある、それらを無視して「どうなる?」と問いかけているのに等しい珍妙な話だ。


本エントリーでは、基礎知識を確認した後、勝谷氏の発言の珍妙さを指摘し、なぜこのような発言がなされたか推論する。




はじめに;基礎知識

(1)当時の「南京市」の空間範囲
このサイトに略図があります。
http://www.geocities.jp/yu77799/jinkou.html
京城の数倍の面積があります。
(20:45補足 当時の南京市は、南京城の内側である城内地区、下関など南京城に隣接した城外地区、さらに3つの郷区(燕磯区、孝陵区、上新河区)で構成されています。決して南京城の内側だけが南京市ではない)

(2)中国の言う「虐殺事件」の空間範囲
南京軍事法廷中華民国側が「虐殺が行われた」と主張した地点は、このサイトを参照。
http://www.jca.apc.org/JWRC/exhibit/China23.HTM
上で紹介した「南京市」のほぼ全域に重なります。
とりわけ、13カ所の大規模虐殺地点が掲載されていますが、そのうち12カ所が南京城の外側です。

(3)中国の言う「埋葬地点」
南京軍事法廷中華民国側が「虐殺が行われた」と主張した地点は、このサイトを参照(注;ここでは主な2団体の埋葬表を紹介。この他南京市衛生局、紅十字など中小規模の埋葬記録あり)。
http://members.at.infoseek.co.jp/NankingMassacre/mondai/maisou/koumanjikai.html
http://members.at.infoseek.co.jp/NankingMassacre/mondai/maisou/suzendou.html
城内埋葬数よりも城外埋葬数のほうがずっと多い。城内約1万体に対し城外約14万体。これら以外に、日本軍が揚子江に流したというのが中華民国(南京法廷)の主張。

おさらい。
・南京市の空間範囲は南京城内よりずっと大きい。南京城の内側は南京市の一部にすぎない。
・中国側は、虐殺が南京城の内側だけで行われたと主張していない。
・中国側は、埋葬の大部分が南京城の外側で行われたと主張している。


本論;勝谷氏の発言の珍妙さ

南京市の城壁は総延長34キロ

「城壁の総延長34キロ」自体は事実。
ところが、城壁は南京市内と南京市外を区切る境界ではない。南京城内は南京市の一部にすぎない。南京市の城壁という表現は適切とは思えない。普通は「南京城の城壁」と書くところだし、「南京市」という表記にこだわるなら「南京市内にある城壁」と書くべきだ。

しかし、そもそも南京城の城壁の長さを持ち出すのは、限りなく無意味に思える。

「数キロ四方の街の中にスマトラ沖地震で生じた遺体全てを放り込んだらどうなるか。それこそ枡に遺体を盛ったような状態であり、それが事実であれば前代未聞の光景としてその様子はもっと世上に流布したであろう。」

数キロ四方の街=南京城内=南京市の一部でしかない。
しかも中国(南京軍事法廷)の提出した資料では、大部分が城外で埋葬したとある。
つまり、京城内に20万30万の遺体を放り込むというシミュレーション自体、中国の主張の真偽の検証にはまったく意味をなさない。

以上、遠慮がちに言ってみた。読者諸兄の想像力を喚起するためである」

どうみても間違った方向に喚起していると思う。


まとめ;推論
勝谷氏の発言がなぜこのような可能性になったのか、考えられる可能性は2つある。

【可能性その1】
勝谷氏は、「南京市は南京城よりずっと広い」「虐殺地点は南京市全域」「埋葬の大部分は城外」という基礎知識がなかった。
基礎知識を欠いたまま「読者諸兄の想像力を喚起」すべく「シミュレーション」を提示した。しかし基礎知識を欠いていたため、結果として的はずれのシミュレーションとなった。

この場合、勝谷氏は愚かだというしかない。
さらに、結果として「印象操作」がなされたと言えるだろう。

【可能性その2】
勝谷氏は、「南京市は南京城よりずっと広い」「虐殺地点は南京市全域」「埋葬の大部分は城外」という基礎知識を知りつつ、あたかも南京市=南京城内、虐殺地点おか=南京城内、埋葬=南京城内というモデルを前提に、「読者諸兄の想像力の喚起」を試みた。

この場合、確信犯的な「印象操作」が行われたと言える。
そのような印象操作を確信犯的に行った勝谷氏は、やはり愚かだと思わざるをえない。


どちらの場合であっても、勝谷氏の責任、そして掲載したSPA編集部の責任が問われるのは避けられないように私には思える。
ちなみに、私は30万人説を支持する者ではない。犠牲者の数は検証困難だと認識している。