tdamさんがまたまた言い逃れしたものの、かえって彼の反論がトンデモ確定になってしまった件


tdamさん祭りがとどまることを知りません(笑)


前回エントリで,tdamさんがトンデモな言い逃れをしたので、ここで丁寧に取り上げてみましょう。

tdam 2011/01/12 21:59
私の、"以下は徴発が正しく行われていたことを示す証言の例です"=日本軍の基本方針として徴発が正しく行われていたことをいっているだけで、別に「南京侵攻時」だけを指定していたわけじゃない。何が「悪質」だ、何が「議論に加わる資格がない」(キリッ)だ。問題を摩り替えて逃げるな。


すごいです、「何が『悪質』だ」「問題を摩り替えて逃げるな」ですよ。。これらの言葉を覚えておきましょう。
では、議論の流れを整理します。


私は、「日本軍(第十軍、第11師団等)は南京侵攻時、軍組織全体として掠奪を繰り返し行った、もっぱら掠奪によって食糧を得ていた、と主張していました。
5W1Hのうち3つのWについて示すと、以下のようになります。

誰が=日本軍が
いつ=南京侵攻時の局面(1937年12月1日頃〜12日頃)
何を=軍組織全体として掠奪を繰り返し行った、もっぱら掠奪によって食糧を得ていた


これに対し、tdamさんが以下のように反論してきたわけです。

tdam 2011/01/10 13:40
以下は徴発が正しく行われていたことを示す証言の例です。このような証言がある中では、日本軍が「専ら徴発によって」食糧調達を依存していたという主張は成り立たないと思うが…。

ところが、上記コメントにて彼の提示した証言は、

誰が=日本軍が
いつ=南京侵攻時(2証言)、南京陥落後(4件)=後者は明らかに時期・局面が不一致
何を=正しい徴発を行っていた

だったわけで、私は呆れて「議論破壊?南京侵攻の時期を知らない?」と述べたわけです。

すると、tdamさんは以下のように抗弁しました。

tdam 2011/01/12 21:59
私の、"以下は徴発が正しく行われていたことを示す証言の例です"=日本軍の基本方針として徴発が正しく行われていたことをいっているだけで、別に「南京侵攻時」だけを指定していたわけじゃない。何が「悪質」だ、何が「議論に加わる資格がない」(キリッ)だ。問題を摩り替えて逃げるな。

つまり、

誰が=日本軍が
いつ=南京侵攻時だけを指定せず(基本方針として)=時期不一致
何を=正しい徴発を行っていた

なのだと。

では、この主張がいかにトンデモなのかを説明しましょう。
以下は、南京事件の初歩知識です。

南京侵攻時=急襲作戦時はきわめて特殊な局面


南京陥落後=急襲作戦終了後の状況
しかも、1月4日には陸軍本部の阿南人事局長が「内部調査」のため南京に入り、現地軍に注意を行なっている

つまり、「叱られる前&急襲作戦時」と「叱られた後&急襲作戦終了後」は、局面が異なり、当然現地日本軍の振る舞いは異なります(叱られた後はある程度是正された)。
だから「叱られる前」と「叱られた後」、異なる局面をいっしょくたにして「基本的に正しい徴発だった」とか、「急襲作戦時」と「急襲作戦終了後」をいっしょくたにして「基本的に正しい徴発だった」などと言えるわけがない。
南京事件の初歩知識を知っていたら、言えるわけがない。

もう少しくだいて整理すると、以下のようになります。

「急襲作戦終了後」の局面で、仮に「正しい徴発」を行ったからと言って、「急襲作戦時」に「正しい徴発」を行っていた、という根拠にはならない。
「叱られた後」の局面で、仮に「正しい徴発」を行ったからと言って、「叱られる前」に正しい徴発を行っていた、という根拠にはならない。

つまりtdamさんの2011/01/10 13:40のコメントは、青狐の上記主張への反論になっていないわけです。


ところが彼は、「急襲作戦時」と「急襲作戦終了後」、「叱られる前」と「叱られた後」、異なる局面をいっしょくたに扱っている。これは明らかに悪質な、歴史修正主義の典型的振る舞いなのです。


すでに彼に質問を行っていますが、上記のトンデモ発言を(1)確信犯的におこなったのか、それとも(2)南京事件の初歩的知識も知らずに「異なる局面をいっしょくたに扱った」のか、どちらなのかは興味があります。

ただし、どちらにしてもというか、(1)の場合は悪質な議論ゴロですし、(2)の場合は「初歩的知識がない人間は踏み込んだ議論をする資格がない」、つまりいずれにしても南京事件についての議論からは下りるのが望ましい、という結論は変わらないと思います。


というわけで、以下の言葉、そっくりそのままtdamさんにお返ししないといけません。
「何が「悪質」だ、何が「議論に加わる資格がない」(キリッ)だ。

※tdamさんは「不戦条約」でもトンデモな議論を行っているので、当ブログでのtdamさん祭り、まだまだ続きます。

tdamさんの史料提示があまりに酷すぎて、南京事件の議論をする資格が強く疑われるという件

「tdamさん祭り」があちこちで盛り上がっているので、一瞬躊躇したが、やはり酷いものは酷いと言っておく必要はある。
http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20110103/p1#cで、tdamさんの史料提示があまりに酷すぎる件。

※tdamさんの名誉のために言っておくと、彼は東中野修道氏のような「なかった派」「完全否定派」ではない。ただ、そのことと以下で紹介することは別問題である。



私は、「日本軍(第十軍、第11師団等)は南京侵攻時、軍組織全体として掠奪を繰り返し行った、もっぱら掠奪によって食糧を得ていた、と主張していたわけだが、これに対してtdamさんが以下のように反論してきた。

tdam 2011/01/10 13:40

以下は徴発が正しく行われていたことを示す証言の例です。このような証言がある中では、日本軍が「専ら徴発によって」食糧調達を依存していたという主張は成り立たないと思うが…。実際のところ、日本軍も国民党軍も徴発も略奪も虐殺も行っていたというところが真実でしょう。

ところが、問題は彼が提示した史料。
最初の2つ、

榊原主計証言(上海派遣軍参謀部員)

敦賀歩兵第18旅団の斎藤敏胤氏の証言

私のみるところ、榊原証言は「組織的掠奪」の存在を示す証言なのだが、これは後日検証する。

明らかに酷いのはその次からである。

"歩兵上等兵従軍記「征野千里」谷口勝著

 昭和13年12月(GHQ焚書図書開封)に南京事変で戦闘が終わったあと、南京から南西の蕪湖に駐留したときのことが書かれています。現地で支那兵捕虜に金を渡して徴発したことが書かれています。"
"李はおそらく盗んできた(というか、盗むことが悪という認識がない)ようですが、それを日本兵が指示したとなれば大変なことになるので、この兵隊さんは怒っているのです。日本軍の軍規が根付いていたことがわかります。"

太字の通り、明らかに「南京占領後」についての証言である。

"長谷川秋広上等兵の私家版『戦火の揚子江を行く』より引用

支那軍(不逞支那人)による南京郊外・農村部での食糧掠奪と殺害
日本軍の南京占領後も支那の盗賊は、
南京の郊外や農村で食糧などを強奪し、殺人までも行なった。
日本軍はちゃんとカネを払って調達したが、
支那軍・不逞支那人はカネを払わず、殺して食糧等を奪った。

明らかに「南京占領後」についての証言である。

■日本軍は金を払った
1月25日(曇)きょうは、発電所に2名の使役をだす。
分隊は正門から約2キロの部落へ、野菜と食糧の徴発に行った。
しかし、軍票がないので、日本円で払うと、土民は喜び、
鶏卵まで加えてくれた」(46頁)
2月6日(晴後曇、時々小雪) 分隊の何名かを残して徴発に行く。
土民も段々好意を持つようになった。
軍票がないので、幾らかの日本銭を与えると
『謝謝』と笑顔で送ってくれる。」(49頁)
4月5日(晴) きょうは勤務はない。
昨日のこと(注:松江付近における敵の急襲)もあるので、
いつ非常出勤があるかも知れない。
野菜不足のため、城外に徴発に行く。
農民は、我々がいつも金を与える関係で喜んで野菜を売ってくれる。
またわれわれのためにすこし備蓄しておいてくれるらしい。」(72頁)"

1月以降の記述だから、明らかに「南京占領後」についての証言である。

http://ww32.tiki.ne.jp/~yamikato1952/jintyu/jintyu6.html
"食糧が極端に不足して,「徴発」しながら進軍したのかと思っていたら,12月4日泗州で「今夕明日三食分ノ飯盒炊事ヲナシ置クヘシ」, 12月8日「建平にて糧秣の支給を受け」とある。ここで,4食分の飯盒炊事を用意している。 9日の東覇では,「醤油味噌砂糖衛生材料煙草を受領」「隊全員に砂糖湯を戴く」とある。
 12日初めて「徴発」の記載がある。りつ(さんずいに栗)水には6日間滞在する。「第一分隊第四班及第二分隊第四班ハ昼間衛兵舎ヲ除キ各徴発任務ニ服ス」とある。後の記述でこれまでなかった「牛飼当番」というのが出てくるから,付近の村から牛を徴発したと思われる。

これは南京侵攻時の史料だが、どこの誰が書いたのか日記なのか、提示がない(笑)

※青狐注 これは「第五師団 第一建築輸卒隊」の陣中日誌。
名前からわかるように、特殊な任務を受け持つ工兵隊である。第十軍に編成されていた。
一般的にいって、工兵隊は「徴発」に携わるということはない(他の部隊に先んじて道を進み、もっとも危険な任務に就いているのだから)
12月4日、8日に食事を支給されているが、これが他部隊で「徴発」で得た食糧なのか、最初から持参していた食糧なのかは不明。

http://www10.ocn.ne.jp/~war/kome.htm
"(12月15日)我が第十六師団の入城式を挙行す、師団が将来城内の警備に当たるのだとゆふものがある。終つて冷酒乾杯。
各師団其他種々雑多の各部隊が既に入城していて、街頭には先にも云つた如く兵隊で溢れ、特務兵なんかには如何はしき(いかがわしき?)服装の者が多い、戦闘後軍紀風紀の頽敗(頽廃?)を防ぐため指揮官がしつかりしないと憂うべき事故が頻発する。
城内に於て百万俵以上の南京米を押収する、この米の有る間は後方から精米は補給しないとゆふ、聊か(いささか)癪だが仕方が無い、因に南京米はぼろぼろで飯盒の中から箸では掬へない。
(第十六師団佐々木到一少将の日記・・・・偕行社「南京戦史資料集」P-380)"


12月15日という日付から、明らかに南京陥落後の記述。


というわけで、tdamさんの提示した史料・証言、最初の2つを除いて南京侵攻時の史料・証言ではない。
なんでこういう悪質なことをするのだろう?


その後もsutehunさんに対して

tdam 2011/01/11 18:01

軍票交換所が設置されていたことは以下の資料から明らかです。
http://kknanking.web.infoseek.co.jp/sougou/tokumu/tokumu.htm

と言い放ち、

sutehun 2011/01/11 18:55

その持ち出した史料、一月五日(これたぶん南京特務とかって書いてあるから1938年だよね)に軍票交換所を設置したって読めるんだけど。

と指摘される始末。
38年1月以降、つまり南京陥落後の特務機関資料なのである。

どうしてこういう悪質なことをするのか。
考えられる可能性は2つで、

1;南京侵攻時がいつからいつまでなのか知っていて、悪意をもって「侵攻時ではない」史料や証言をいっぱい並べた。

2;南京侵攻時がいつからいつまでなのか理解しておらず、それゆえ「侵攻時ではない」史料や証言をいっぱい並べた。

1の場合は確信犯的「議論破壊」なので、これ以上議論に加わるべきではない。
2の場合は「南京事件の初歩的知識」を知らないまま議論していることになるわけで、「南京事件」をめぐる踏み込んだ議論に加わる資格がない。

こんな酷い言い逃れは初めて見たよ!(または、「無敵の人」の究極の無敵メソッドについて)

http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20110103/p1#cでのtdamさんの議論だが、
tdamさんの言い逃れがあまりに酷いので、議論を打ち切った。

問題となった発言(太字が問題となった箇所)

tdam 2011/01/10 14:54


sutehunさん貴方、ハーグ陸戦協定も読めないんじゃないか?そんなレベルで議論に参加するなよ。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B0%E9%99%B8%E6%88%A6%E6%9D%A1%E7%B4%84
"第52条:現品を供給させる場合には、住民に対して即金を支払わなければならない、それが出来ない場合には領収書を発行して速やかに支払いを履行すること"

徴発と引き換えに軍票(張り紙)を渡す段階で「速やかな支払い」は終了で、それを金銭に兌換するのは軍票を受け取った側が自由なタイミングで行うこと。そこで速やかに兌換できなかったら別の問題が発生するのであって、今はそれを論じているのではない。

しかし上記太字部分、「ハーグ」52条のトンデモ解釈。
そもそも、条規の原文読んでないだろ。
それで、「貴方、ハーグ陸戦協定も読めないんじゃないか?」とは酷すぎる発言だ。
ということで、青狐、横レスで批判する。

bluefox014 2011/01/10 22:24


ハーグ条規陸戦条規52条の条文も

「現品ノ供給ニ對シテハ成ルヘク即金ニテ支拂ヒ然ラサレハ領収證ヲ以テ之ヲ證明スヘク且成ルヘク速ニ之ニ對スル金額ノ支拂ヲ履行スヘキモノトス」

と書かれています。
この条文は、原則的には「即金ニテ支拂ヒ」を行うべき、それができない場合は「領収證ヲ以テ之ヲ證明スヘク」且つ「成ルヘク速ニ之ニ對スル金額ノ支拂ヲ履行スヘキモノトス」、つまり受領書(条文では領収書)発行した後に「これに対する金額の支払いを履行すべき」と明文化しています。つまり買い手(=軍)の側に自発的/能動的に金銭による支払いを履行する義務があります。

つまり、どこをどう読んでも軍票・張り紙(=物品受領書。条文では「領収書」※※)を渡した時点で支払いは終了」という解釈はでてくるわけはないのです。

※英文では「receipt」、適切な訳は「受取書」「物品受領書」(買い手が発行する書面)だが、戦前の日本語訳では「領収書」となっている。※※コメント原文に語句補足した


要するに、即金で払えない場合に軍は

1;受取証の発行
2;金銭の支払い(速やかに)

の2つの義務がある、という条文である。


さて、青狐は、tdamさん自身の発言を使って、tdamさんを追いつめる。

bluefox014 2011/01/10 22:34


そうそう、tdamさんはsutehunさんに

sutehunさん 貴方、ハーグ陸戦協定も読めないんじゃないか?そんなレベルで議論に参加するなよ。

と言い放ちましたね(2011/01/10 14:54)。
ところが、「ハーグ陸戦協定が読めなかった」のは(私が指摘したように)tdamさんのほうでした。

tdamさんは「ハーグ陸戦協定も読めないんじゃないレベルで議論に参加するなよ」ということですので、ここはぜひご自身に向かって「tdamよ、ハーグ陸戦協定も読めないんじゃないレベルで議論に参加するなよ」と宣告してください。
では、どうぞ。


これに対するtdamさんの言い逃れを読んで、絶句した。

tdam 2011/01/11 01:07
"「速やかな支払い」は終了"は"「速やかな軍票交付」は終了"の書き間違えですので、「ハーグ陸戦協定が読めなかった」わけではありません。(その後の兌換のことも言及していますしね。)


えー、そんな書き間違いは、以下の3つの理由から、ありえないはずです。

(1)「しはらい」を「ぐんひょうこうふ」と変換する可能性は絶対にありえない。

(2)(問題の文章で)「速やかな軍票交付」と「支払い」を入れ替えてみると、

徴発と引き換えに軍票(張り紙)を渡す段階で「速やかな軍票の交付」は終了で

   と、なんとも同語反復的な、不自然な文章になってしまう。

(3)原文にも現代文訳にも、領収書の発行に対し「速やかに」という形容はされていない。以下参照。

それが出来ない場合には領収書を発行して速やかに支払いを履行すること

然ラサレハ領収證ヲ以テ之ヲ證明スヘク且成ルヘク速ニ之ニ對スル金額ノ支拂ヲ履行スヘキ

だから、「速やかな軍票の交付」などという条文解釈は、絶対にありえない。
というか、受取証は物品受領と同時に発行するのが社会常識で、速やかに発行するのは、言わずもがなのことである。


青狐、もう受忍の限界です。ギブアップです。

「米国に盲従」したい人にとっては嬉しいニュース!

谷内正太郎氏の以下のコメントについてはApemanさんが先月取り上げたので覚えておられる方も多いと思うが、

 日本にとって最も重要な同盟国の米国が、国際社会の反対を顧みず武力行使に踏み切ろうとしている時、「やめておけ」という態度は取り得ないのではないか。同時に私は、サダム・フセインが自国民を抑圧することへの怒りがあったので、「米国がやるから嫌々従う」のではなく、日本はもっと積極的にかかわるべきだと考えていた。

このたび、谷内氏は外務省顧問に復帰したらしい。
1月8日付朝日新聞記事

前原誠司外相が昨年12月、谷内正太郎事務次官ら外務省OB5人を同省顧問に任命していたことが8日、明らかになった。5人のうち谷内氏ら3人は昨年、岡田克也前外相が「政治主導」を重視するとして退任させていた。

 新たに顧問となったのは谷内氏のほか、林貞行元事務次官加藤良三元駐米大使、宮本雄二前駐中国大使、都甲岳洋元駐ロシア大使。

 民主党政権外交政策をめぐっては、米軍普天間飛行場の移設問題や中国漁船衝突事件北方領土問題などで不手際が続いているとの指摘がある。このため、前原氏は「岡田路線」を修正し、次官経験者らの知見を活用する必要があると判断したと見られる。

 顧問は無給で、次官経験者らが退任後、最長10年間務めるのが慣例。だが、岡田前外相は「自動的に(顧問に)なるのは必ずしも適切ではない」として、当時顧問だった5人全員を昨年7月1日付で退任させた。

菅直人首相がもろもろ思考停止に陥っている間に、前原外相周辺では独自のプログラムを発動させている(させようとしている)、ということだろうか。

「ハーグ陸戦条規」の曲解で成立する「解釈否定論」

http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20110103/p1#cでの(青狐ほかの)議論の整理。

私の理解では、tdamさんの主張は、基本的には以下の2つで構成されている。*1
(1)中国兵は軍服を脱いで市街に逃亡/潜伏した時点でハーグ陸戦条規違反である
(2)違反した兵士の無裁判処刑は、合法/不法の双方の見解があり、不法殺害だと断定できるものではない。
しかし、上記(1)は奇妙な論である。というのも、ハーグ陸戦条規にはそのような条文は存在しないからだ。


この奇妙な論を成立させているのは、tdamさんの独特な「ハーグ」第1条解釈である。
tdamさんは以下のような「解釈」を述べる。

tdam
もちろん、文字通りは、"民兵義勇兵団"についての"左ノ条件"(第1項から第4項)を満たせば"交戦者ノ資格"・"権利義務"を有するものとみなす、という規定であることは分かっています。

しかしながら、"戦争ノ法規及権利義務ハ、単ニ之ヲ軍ニ適用スルノミナラス"という部分の文脈(とくに"権利"と"義務"の両方に言及していること)を考えると、「正規"軍"は当然"左ノ条件"を満たす義務と、その対価としての、捕虜として扱われる権利がある」ということも言外に含んでいるものと解釈できます。


どうみてもこれは、奇妙な法解釈である。
既にid:sutehunさんが適切なコメントを述べている。

sutehun
もしもこの規定が正規軍に関係するものであるならば、『正規軍とはこういった要件を満たすものであって、この要件を満たす他の交戦者についても、戦争の放棄・権利・義務が適用される』という内容であるはずです。


さらに、id:dondoko9876さんが丁寧なコメントをされているので、全文転載する。

dondoko9876
交戦資格とは、捕虜となる特権をもつことと同義です。
捕虜となる特権は、軍人については無条件です。軍服を着ていることなどの条件は付されておりません。
以下に示すとおり、それらの条件は民兵及び義勇兵に適用される規則です。

ハーグ陸戦協定 第一章
第一条(民兵及び義勇兵団)
 戦争の法規及び権利義務は、単にこれを軍に適用するばかりではなく、つぎの要件を備えた民兵及び義勇兵団にもこれを適用する。
 (1)指揮官の存在すること
 (2)遠方より認識できる特別の徴証を有すること
 (3)公然と武器を継体すること
 (4)その行為につき、戦争の法規慣例を遵守すること
 民兵または義勇兵団を以て軍の全部または一部を組織する国については、これを軍の名の下に含む。

 なぜ軍人は無条件に捕虜となる特権が与えられているかと言えば、軍人は組織されており、制服を着用しており、公然と武器を携帯しているのが常態だからです。
 それでは軍服を脱いだ軍人や本隊からはぐれてしまったような軍人はどう扱われるのかと言えば、敵対行為を執らない限りにおいて、特に定めはありませんので、やはり軍人としての扱いを受けます。
 軍人が私服を着て敵対行為をとることは背信行為として禁止されていますが、武器を捨て、敵対行為に及ばなければ、捕虜となる特権を有します。
 武器を置いて降伏した軍人を殺害することは禁じられています。

第二三条
 特別の条約を以て定められた禁止行為のほか、特に禁止する行為はつぎのとおりである。
(ロ)敵国または敵軍に属する者を背信行為を以て殺傷すること。
(ハ)兵器を捨て、又は自衛の手段が尽きて降伏を求める敵を殺傷すること。

 私服を着た軍人を捕らえて武装解除した時点で、戦闘行為は終了です。
 保護しなければならない捕虜を大量に処刑した行為は、明らかにハーグ協定違反です。
 まして命を助ける旨を伝えて大人しく降伏させたあと、だまし討ちのように処刑するような行為は、それこそが背信行為であり、許されません。

 否定派が「便衣兵」という場合、私服に変装した軍人と私服のまま戦う市民兵を区別していません。誰であれ私服で戦うことが一切許されていないかのような誤解がはびこっていますが、間違いです。
 協定第二条に明らかなとおり、組織されておらず、制服を着ていない市民兵さえも、戦闘地帯においては捕虜となる特権があります(群民兵といいます)。
 祖国を防衛する権利はすべての人民に備わっているからです。

第二条(群民兵
 占領されていない地域の人民であり、敵が接近するにあたって、第一条の規定にしたがって編成する余裕がなく、侵入軍隊に抵抗するため自ら兵器を執る者が、公然とその兵器を携帯して、かつ戦争の法規慣例を遵守するときは、これを好戦者として認める。

 なぜ占領されていない地域に限定するかといえば、占領地にあっては群民兵と市民との見分けがつかないからです。
 しかしながら、南京戦において市民兵や市民に偽装した軍人が相当規模で戦闘したという記録は見あたりません。

ここで重要なのは、「ハーグ」第2条、すなわち「軍服を着ていない」状態でも「指揮官」がいない状態でも(侵略された側の人間は/戦争の法規慣例を遵守すれば)捕虜となる特権があるという私的である。
つまり、「ハーグ」において、「軍服を脱いだだけで捕虜になる特権を失う」などという解釈が成立する余地はないのだ。少なくとも「群民兵」と同様に捕虜になる特権を有する、というのが妥当な法解釈だろう。
このdondoko9876さんの指摘に対し、tdamさんからの反論はない。


また、「権利と義務は等価」というtdamさんの考えに対し、sutehunさんは厳しい批判を加えている。

sutehun
同一人に帰する権利・義務は対価関係にあるものではありません。
ある行為の一方当事者である甲の有する権利に対応し、当該行為のもう一方の当事者である乙は、甲の有する権利を保護する義務を負う。権利と義務とはこういう関係にあります。
こいつは法学の基礎です。初歩以前の問題です。

これを踏まえ、私が「「権利と義務は対価である」という(奇妙な)論理」と述べたことに対し、

そもそも、「権利と義務は対価である」のは奇妙な論理ではなく、普遍的な慣習法だと思います。

いや全く、法学の基礎ができていないようだ。
法律用語辞典でも「権利」と「義務」は対義語という位置づけになっていない。法学的には、たとえば納税の義務は「権利」と対価になっていない。(逆も同様)。

ここまで法学の基礎を無視して議論されると困ったものである。
(「慣習法」についても、法学的な知識を踏まえているのか、きわめて疑わしい)


結論から言えば、実際に「便衣戦術による戦闘行為」を行わない限り、民服に着替えた中国兵は何らハーグ陸戦条規に違反していない。従って日本軍に「処刑」されるいわれは全く存在しない。
無裁判処刑が合法か不法か、という議論以前の問題である。

*1:これ以外の要素については後日エントリで取り上げる

自爆しているたとえ話

id:tdamさんの、あまりにくだらないたとえ話。
http://d.hatena.ne.jp/tdam/20110105/1294155499

鉄火巻きが落ちてしまい、海苔をつけずワサビ抜きでシャリに紛れた寿司、いわゆる便衣寿司の扱いはどうなるでしょうか?

ちなみに、
鉄火巻き=指揮官
海苔=識別可能な固有の徽章
ワサビ=兵器の携帯
のたとえ、なのだそうな。

これ、完全な自爆になっている。


あまりにひどいので、ブコメしておいた。
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/tdam/20110105/1294155499

bluefox014これはひどい
寿司職人が握った寿司ならば「海苔巻きや軍艦巻きがない」「鉄火巻がない」寿司も当然「寿司」(自爆1)。
「ワサビ」=武器携帯ならば、「ワサビ抜き」=武器を携帯しない、便衣戦術に参加しない者→無罪(自爆2)

「自爆」であることの説明はほとんど不要だろう。
ワサビ抜き=武器を携帯しない逃亡兵は「便衣兵」になりえない。便衣兵になりえない者を捕捉ののち殺害することは、100%不法殺害である。


「まず結論ありき」で考えるから、こういうトンデモなたとえ話を自分のブログで披露してしまうのだろう。

そもそも「死罪」に該当するような戦時犯罪なのか?

http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20110105の、便衣兵殺害に関する議論について補足。

南京事件において、便衣兵殺害=合法殺害論に立つ人の主張に対して常々疑問に思っていることは、
・侵略された側の正規兵が
・軍服を脱いで
・逃亡/潜伏した
ことが、死罪に値する戦時犯罪なのか? という疑問である。

仮に戦時犯罪に該当するとしたら、ハーグ陸戦条規の第23条違反になると思われるが、

【第二三条】(禁止事項)
ろ 敵国又は敵軍に属する者を背信の行為を以て殺傷すること
http://www1.umn.edu/humanrts/japanese/J1907c.htm

ここで禁止事項となっているのは「背信の行為を以て殺傷すること」である。
「民服に着替えて逃亡/潜伏したこと」=「背信の行為を以て殺傷すること」と同一化することは、どうみても無理がある。

つまり、実際にゲリラ戦を行わない限り、23条に抵触するとは考えられない。


また、ハーグ陸戦条規の第1条違反という主張をあちこちで目にするが、そもそも第1条は「民兵義勇兵」についての規定である。

【第一条】(民兵義勇兵
戦争の法規及権利義務は、単に之を軍に適用するのみならす、左の条件を具備する民兵義勇兵団にも亦之を適用す。
一.部下の為に責任を負ふ者其の頭に在ること
二.遠方より認識し得へき固著の特殊徽章を有すること
三.公然兵器を携帯すること
四.其の動作に付戦争の法規慣例を遵守すること

つまり、「第一項〜第四項の条件」を具備する民兵義勇兵団にも「戦争の法規及権利義務」を適用する、という条項であり、正規兵に対しては、何ら規定を示していない。
この条文を根拠に、正規兵に対して死罪を加えることは、到底無理があるだろう。


以上の点だけでも「死罪に値する戦時犯罪」説に説得力はないと私は考えるが、さらにいえば、侵略された側が劣勢状況で、軍服を脱いで逃亡/潜伏することのどこが「死罪に値する」行為なのか、さっぱり理解できない。


想像してみよう。
1945年の沖縄戦で、日本軍兵士が軍服を脱いで逃亡/潜伏したら「死罪に値する」行為だったのか? 
もし本土決戦に至り、日本軍兵士が軍服を脱いで逃亡/潜伏したら「死罪に値する」行為だったのか?


そもそも、もっとも不法行為を問われる人間は誰か? 侵略し、そこを占領している人間である。
まず不法行為を止めるべき人間は誰か? 侵略者である。一刻も早く、その場を立ち去るべきなのだ。


侵略された側に立って物事を考えてみれば、「侵略した側」の主張のグロテスクさがわかる(はずだ)。