産経新聞記事、「こじつけ」の可能性(ビル・グッテンタグ監督映画に対して)

産経記事は「米で反日史観映画 「レイプ・オブ・南京」下敷き」という見出しを立てている。しかし読んでみると、「レイプ・オブ・南京」を「下敷き」にしていると断定するだけの根拠は、記事には書かれていない。
http://www.sankei.co.jp/news/061126/kok004.htm
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/29119/

米で反日史観映画 「レイプ・オブ・南京」下敷き 年明け発表 【ワシントン=山本秀也

米国の大手インターネット企業「アメリカ・オンライン」(AOL)のテッド・レオンシス副会長(50)が、南京事件(1937年)に取材した映画「南京」(仮題)を制作し、年明け以降、発表する。ドキュメンタリー作品の体裁だが、史実の認定は反日的な歴史観で知られる中国系米国人作家、故アイリス・チャン氏の「レイプ・オブ・南京」を踏まえているとされる。公開されれば来年70周年を迎える同事件や歴史問題をめぐり、日本の国際的立場に深刻な影響を与える可能性もある。
 ■AOL副会長制作
 AOLの米国広報では、レオンシス氏による「南京」の制作を確認する一方、同社は制作に関与していないとしている。レオンシス氏は「アガペ」という映像プロダクションを設立し、映画参入の第1作として制作に取り組んでいる。
 制作情報をまとめると、「南京」は事件に関連した記録や事件関係者への取材映像に俳優のナレーションを織り交ぜる構成で、「欧米人が語る南京事件」に重点が置かれる。音楽はグラミー賞を受賞したロック界の大御所ルー・リードが担当するという。
 作品は来年、米国内で開かれる映画祭で発表の予定だ。米紙ワシントン・ポストによれば、中国市場に向けてDVDの販売が計画されるほか、国営中国中央テレビ(CCTV)が作品放映権を獲得しているという。南京事件に関心を抱いた理由について、レオンシス氏は、保養中に読んだアイリス・チャン氏の自殺(2004年)をめぐる古新聞の記事がきっかけだったと同紙に説明。これまでの報道では、作品がチャン氏の「レイプ・オブ・南京」をベースにした内容となることが強く示唆されていた。
 華僑消息筋によると、レオンシス氏は10月末、東部メリーランド州で開催されたアイリス・チャン氏を記念する論文コンテストに来賓として出席し、「南京」の制作状況を報告した。論文コンテストは、米国を舞台に反日宣伝を繰り返してきた中国系組織「世界抗日戦争史実維護連合会」が主催し、論文約430点が寄せられた。
 南京事件を扱った映画は、中国、香港でこれまで多数制作された。今年初めに上海紙「文匯報」が、米国のクリント・イーストウッド監督が「南京・クリスマス・1937」を制作すると伝えた話は事実無根だったが、事件70周年を控え、中国内外で新たな作品の制作が伝えられている。
 レオンシス氏は、AOLの事業モデルを有料インターネット接続事業から広告収入主体に転換した米国の有力企業人。北米プロアイスホッケー(NHL)の人気チーム「ワシントン・キャピトルズ」のオーナーを務めるなど、娯楽スポーツ分野でも知られる。
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【用語解説】レイプ・オブ・南京
 中国系米国人の女性著述家、アイリス・チャン(中国名・張純如)氏が1997年に発表した南京事件に関する著作。同事件で旧日本軍が市民約30万人を虐殺、女性2万人から8万人を乱暴したなどと論じたが事実誤認や写真の誤りなどが多数指摘された。日本語版の出版は見送られたものの、米国内では現在もロングセラーとなっている。

へぇ、ルー・リードか…という感慨は後回しにして、この記事の疑問点。
まず、

これまでの報道では、作品がチャン氏の「レイプ・オブ・南京」をベースにした内容となることが強く示唆されていた

とあるが、このソースが示されていない。というか、少なくとも企画書からはそのようには判断できない。
このソース不明の記述を除くと、この記事内で「映画」と「レイプ・オブ・ナンキン」の接点らしき記述は2カ所だけである。

南京事件に関心を抱いた理由について、レオンシス氏は、保養中に読んだアイリス・チャン氏の自殺(2004年)をめぐる古新聞の記事がきっかけだったと同紙に説明。

華僑消息筋によると、レオンシス氏は10月末、東部メリーランド州で開催されたアイリス・チャン氏を記念する論文コンテストに来賓として出席し、「南京」の制作状況を報告した。論文コンテストは、米国を舞台に反日宣伝を繰り返してきた中国系組織「世界抗日戦争史実維護連合会」が主催し、論文約430点が寄せられた。

これだけで「下敷き」と断定するのは、かなりの無理がある。

チャン氏の自殺記事が契機だからといって、映画の内容が「チャン氏の著作を下敷き」にされたとは限らない。
またレオンシス氏が上記の論文コンテストに出席し制作状況を報告したからといって、映画の内容が「チャン氏の著作を下敷き」にするとは限らない。
「世界抗日戦争史実維護連合会」にとっては、仮に公平な判断で制作された映画でも、彼らの活動には好都合であるわけだし、レオンシス氏にとっても中国系アメリカ人という市場に接触するのは実利があるわけで、両者の間に利害の一致点があることは確実だろう。
しかしそのことから、映画の内容が「チャン氏の著作を下敷き」にした、と判断するには大きな飛躍がある。

現時点では、映画の内容が「チャン氏の著作を下敷き」であると決めつけるのは早計であろう。