東中野氏「正論」7月号論文のここがダメ(序)

(6月5日、冒頭部を多少改稿)
さて、「正論」7月号所収・東中野修道氏の「「南京大虐殺という」虚構宣伝の全容と教科書のウソ」をチェックします。これは単行本「南京事件 国民党極秘文書から読み解く」のサマリー的な内容のものですが、単なる「プロパガンダ」説の域を超えて、「陰謀史観」的様相を呈しています。


この論文は、中国国民党の「中央宣伝部国際宣伝処概要」を主な史料に、南京大虐殺が国民党の「虚構宣伝」であると主張するというものです。
この論文で、東中野氏が言いたいことは298頁の以下の文章に表現されています。

国民党中央宣伝部…国際宣伝課…編集課の「工作概況」を見ると、次のような記述がある。
「南京防衛戦のときにはわが軍の勇気を奮い起こした作戦。後方の救援工作を宣伝し、首都南京が陥落した後は敵の暴行を暴いて…宣伝した」
ここで「首都南京が陥落した後は敵の暴行を暴いて」という報告に目をとどめていただきたい。南京が陥落した後は日本軍の日本軍の暴行を暴いたのである。これは二通りに解釈できよう。南京陥落後はたまたま日本軍の暴行がひどかったので、それを宣伝したということなのか、それとも南京陥落後は日本軍の暴行を宣伝する方針をあらかじめ立てておいて、その計画を計画通りに運んだというのか。これから述べるように、これは後者としか考えられない。


「首都南京が陥落した後は敵の暴行を暴いて」という記述に対して、「南京陥落後は日本軍の暴行を宣伝する方針をあらかじめ立てておいて、その計画を計画通りに運んだ」としか考えられないのだそうな。
元の文を読む限り、かなり無理のある解釈だと思いますが。
その根拠は後述ということなので、それ以降の文章を読んでいくと…


以降の構成は次の5つの柱で構成されています。

工作1 日本軍が暴行を働くように仕向ける
工作2 南京の欧米人と日本軍を対立させる
工作3 世界に「敵の暴行」を発信させる
工作4 更に「敵の暴行」を発信させる
国民党中央宣伝部は南京大虐殺を否定していた



以下、各章ごとにチェックを入れたものをエントリしますが、待ちきれないという人のために、大まかなサマリー。

●「工作1」→今回初登場の説だがトンデモ。こじつけメソッド連発。

●「工作2」→たしかに南京の欧米人と日本軍は対立しましたが、別に「中央宣伝部」の工作が原因で対立したわけではないし、因果関係はないのでは

●「工作3」→「ベイツレポート元ネタ説」はhttp://www.geocities.jp/yu77799/bates2.htmlウソが暴かれていますよ

●「工作4」→ティンパーリーについてはhttp://www.nextftp.com/tarari/timperley.htmhttp://www.nextftp.com/tarari/timperley2.htm、ベイツについてはhttp://www.geocities.jp/yu77799/bates1.html、「目撃1件のみ」についてはhttp://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060603既に見抜かれている東中野メソッドのリバイバル

●「国際宣伝部…否定していた」→素人騙しのトリック。http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060506http://www11.ocn.ne.jp/~nbbk/143/prolog.html参照。



青狐の結論(東中野氏が「としか考えられない」と述べた説に対して)その可能性が0%とは言いませんが、おそらく東中野氏の脳内妄想の域を超えないでしょう。くれぐれも「真実」かのように述べないでくださいね。

さて、最も主要な論点は、中央宣伝部が「宣伝活動」を行ったか否かではありません。「宣伝活動」の存在を否定する人間はいません。問題は、宣伝の内容が「デマ」か否かです。

次のエントリで、各章ごとにチェックを入れていきます。では。