ダブリン・ソウル・プラハ・ラサ

1916年4月24日、ダブリンのイースター蜂起。アイルランド共和国の独立宣言。

1919年3月1日、ソウルで「独立宣言文」の朗読、「独立万歳」を叫ぶ数万のデモ行進(三・一独立運動)。

1968年、プラハの春

2008年3月、ラサでの暴動。*1

どれひとつとして同じ出来事はない。しかし、これらを一つの文脈でつなげて考えることもできる。
これらをつなげてみることで、みえてくることがある。
同時に、もう一本の線を考えてみることもできる。

1916年、ダブリンでアイルランド義勇軍を「鎮圧」したイングランドの警察権力・軍。

1919年3月〜5月、ソウルほか朝鮮全土で三・一独立運動を「鎮圧」した日本の官憲・軍。

1968年8月20日チェコ全土を制圧したソ連軍。

2008年、ラサの暴動を鎮圧した中国の官憲・軍。


どれひとつとして同じ出来事はない。しかし、これらを一つの文脈でつなげて考えることもできる。
これらをつなげてみることで、みえてくることがある。

独立運動を弾圧したという点で、1916年のイギリス、1919年の日本、現在の中国は共通している。そして私が考えるのは、それらの弾圧なり「鎮圧」には正当性があるのか、という問題である。

ご存じの通り、植民地統治の是非をめぐっては、一部で議論が噴出している。
「しかたがなかった」論、近代化させてあげた論、自力では発展できなかったはずだ論、などなど(先日届いたトラックバックはその典型だ)。
では、独立運動の「弾圧・鎮圧」の是非はどうなのだろう。
果たして「弾圧・鎮圧」の側に正当性はあるのか。それとも、ある出来事については「不当」であり、ある出来事については「正当」という切り分けが可能なのか。

歴史相対主義=今の価値基準で昔の出来事を評価するな、という考えがある。
では、歴史相対主義の立場からは、、独立運動の「弾圧・鎮圧」の是非はどう判断されるのか。
独立運動を弾圧しても不当ではない」という立場はありうるのか?

実際に「弾圧・鎮圧」において死んだ者が存在する。では、殺した側(弾圧・鎮圧した側)に正当性はあるのか。
もし殺した側(弾圧・鎮圧した側)に正当性があるのなら、殺された側は「殺されても文句はいえない」ということなのだろうか。「独立運動」にコミットすることは「殺されても文句をいえない」ほどに正当性を持たないことなのだろうか。

これらは、多くの「日本人」にとっては(多かれ少なかれ)痛みを伴う問いかけだと思う。
かつて日本人は、誰かの「自主独立」の望みを踏みにじったということ。その事実は私たちに痛みをもたらす。

ちなみに、三・一独立運動の「独立宣言文」は非暴力理念に基づくものである。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E3%83%BB%E4%B8%80%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E9%81%8B%E5%8B%95#.E5.BD.B1.E9.9F.BF.E3.81.A8.E6.84.8F.E7.BE.A9
吾らはここに、我が朝鮮が独立国であり朝鮮人が自由民である事を宣言する。これを以て世界万邦に告げ人類平等の大義を克明にし、これを以て子孫万代に告げ民族自存の正当な権利を永久に所有せしむるとする」という一文から独立宣言は始まる。タイトルに、そして冒頭の一文に明確に述べられているように、この宣言書は何よりも朝鮮が独立した国家であること、及びその国民である朝鮮人民が自由であることに重きを置いたものであり、そしてそれは「人類平等の大義」と「民族自存」という原理に基づくものとして捉えられている。この他、朝鮮という民族国家が発展し幸福であるためには独立を確立すべきこと、そしてそのために旧思想・旧支配層・日本からもたらされた不合理なものを一掃することが急務であること、朝鮮の独立によって日本及びそこに住む人々との間に正しい友好関係を樹立することなどが宣言の骨子となっている。

一読して分かるように、非常に理想主義によって貫かれた独立宣言文であった。特徴的なのはその戦闘性の希薄さであって、日本に対する独立宣言でありながら、その日本に対し真の友好関係樹立を呼びかけている。これは三原則の一つ非暴力理念を反映した結果といえる。

この呼びかけに応じなかったことの代償は大きかったのではないか?
その後の26年の歴史(1945年までの歴史)を振り返るならば。



しかしまれに、先の問いかけ自体を回避しようと試みる者もいる。

例えば「三・一事件にしろ、あれも小作人と朝鮮人地主のトラブルがたまたま暴動化しただけで、組織的な独立運動とは何の関係もないらしいしな」などという言葉で、独立運動であることを否定しようとする人。*2

この人物は、独立宣言文の存在を知ってからもなお、以下のように言い放つ。
http://blog.goo.ne.jp/ojisannsama/e/6ed2ae076b7fc4d21f9faebeb425fbf6#comment

これが噂の「勝利宣言」かねw
(潜水艦)
2008-05-30 22:24:49

ふつー、アイルランドとかインドみたいに植民地にされた国の独立闘争って何十年と合法・非合法を問わずに続くもんだろ? なんで朝鮮はこれ一度だけで終わっちゃったのかね? 東学党の乱と同じで単なる無秩序な暴動でしょ、これ。あちらさんが思い込むのは勝手だがね。

この人の価値観では、散発的な独立運動は「単なる無秩序な暴動」になるらしい。*3
ここまで不誠実な態度を貫ける人を、私は他に知らない。

*1:もちろん、これらに1954年のアルジェや、1991年のヴィリニュス(注;リトアニアの首都)など、いろいろ付け足すこともできるだろう。

*2:先日「女の子のヒスにも困ったものだね」と述べた人と同一人物ですが

*3:ちなみにイギリス併合後のアイルランドで継続的な独立運動が行われるのは、併合後100年以上を経てからで、それまでは散発的な蜂起や運動にとどまっている。そもそも、韓国併合は35年、アイルランド併合は約120年なのだから、独立運動の厚みを単純に比較するのは容易ではないはずだが。