南京事件は「他者恐怖」が生み出した事件ではない


yasudaさんのエントリ「ジャンピング曜日」に対する私の解釈(前日エントリ)に対し、otehさんから異論が出された。
http://d.hatena.ne.jp/oteh/20080105/p1

 果たしてこの人(=yasudaさんのこと。青狐注)は自分自身の考えとして虐殺を正当化しているんだろうか。かなり露悪的に書いているので読み取りにくいのは確かだけど、俺はちょっと違うんじゃないかと思う。むしろ、「虐殺を正当化する人が持っているであろう世界認識」を内在的にシミュレートしているんじゃないか。

この文脈においては、虐殺者の目の前にいる者が、その主観においては『「殺したくなるような、殺されてもしかたがないような存在」のサンプル』であることがどうしても必要だったんじゃないか。

上記のotehさんの意見についてはこれからレスをまとめたいが、その前に補足しておきたいことがある。


そもそも南京事件は「他者恐怖を募らせた日本兵が、他者(=中国人)を悪魔に見立て、殺害した」という種類の事件ではない。

南京事件における虐殺行為とは、史料で確認される限り「敵の戦意を喪失させ、屈服に追い込み、終戦に至らせる」ために「民間人巻き添えも辞さない」殲滅戦術が生み出した大量殺害(前述『熊本兵団戦史』http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20050309)、捕虜に食べさせる食糧がないため、口減らしのための大量捕虜殺害(「岡村寧次大将陣中感想録」http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20050309ほか)、入城式で皇族(朝香宮)を安全に凱旋させるため、元兵士の疑いあるものを殺害(笠原『南京事件』に詳しい)、中国人を消耗品の如く使役したあげくの殺害(日高信六郎参事官の証言http://d.hatena.ne.jp/Jodorowsky/20070926)、強姦したあげくの婦女殺害(安全区国際委員会文書ほか)などである。


そして日本軍内部も多発したことを認めている強姦行為は、「他者恐怖」とはまったく関係ないはずだ。
そして同じく多発した略奪行為は、日本軍が自前で食糧を携行せず、掠奪しなければ自炊もできない「盗賊」集団だったことに由来する。これも「他者恐怖」とは関係がなく起こった事柄だ。



これらに留意すると、南京事件に関して「他者恐怖」「他者を悪魔化してしまった」ゆえに虐殺が起こったのでは?と問題設定すること自体が、何というか、偽りの問題設定のように思われる。

ましてや、南京事件においては「(ジャンピングタイガー男のような)愚かな中国人が金をせびったから殺した」という事例など確認されていないわけで、ジャンピングタイガー男を南京事件の被害者に見立てること自体が、偽りの問題設定なのである。

それは、安直に「やむをえなかった」論を唱えたい人間にとっては都合のいい問題設定だと思うけど、

以上、先日のエントリで言及しなかったこと。