fromdusktildawnさんはどこを間違えているのか

さて、今日になってfromdusktildawnさんの新しいエントリが2つだされたわけですが、
http://fromdusktildawn.g.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20080104/1199397671
http://fromdusktildawn.g.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20080104/1199423836



私の整理では、現在の南京事件論争をは大ざっぱに整理すると2つの次元があって、

(1)有無:大規模な残虐行為(虐殺、強姦など)そのものがあったのか、なかったのか
(2)解釈:残虐行為があったとして、それは「南京事件」または「南京大虐殺」あるいは「マサカー」と呼びうるに値するものか

そして日本の南京事件否定派の主張はというと、2人のキーパーソン、田中正明氏(故人)も東中野修道氏も(1)の次元の否定論、つまり残虐行為そのものがなかった(またはほとんどなかった)というスタンスです。
東中野グループは長らく「不法殺害はおそらくゼロ」説(東中野自身は明言せず仄めかすかたちですが、藤岡信勝は講演等でそう明言しています)に立っていますし、昨年刊行された「別冊宝島」でのインタビューで東中野氏自身が「掠奪・強姦は10件内外と思われる」と表明しています。いっぽうの田中正明氏も、「占領下の南京は平和だった」説に立っています。

つまり、残虐行為そのものが(ほとんど)なかったという「完全否定論」なのです。
そしてネット上の否定論の大部分は、田中正明のフォロワーである松尾一郎、大原&竹本、そのまたフォロワーである小林よしのり、さらに東中野修道といった論者のコピーまたは劣化コピーです。

これに対し、上記(2)の次元での論者は、北村稔氏のような人物に限られます。最近の北村の主張は「マサカー(虐殺)はなかった、あったのはコンフージョン(混乱)だった」という論旨ですが、このような解釈論に立って論争する人間は今のところ、私の経験でもほとんど見受けられません。



ですから、ネット上で「南京事件論争」が行われるときも、多くの場合上記(1)のレベル、つまり完全否定論と反・完全否定論という構図になります。

今回の論争の元ネタとなった「ぼやきくっくり」で「はしげた」氏が相手したのは、主に(田中正明→松尾一郎のコピペの)上記(1)レベルの完全否定論でした。
さらにそれを紹介した九郎氏も、揶揄の対象である「南京厨」とは、「南京で虐殺なんかなかった厨」、つまり上記(1)レベルでの否定論者であることを明記しています。

くっくりブログでの否定論者は10人中9〜10人、上記(1)の次元だったわけですから、はしげた氏の発言が上記(1)の次元に終始するのは当然だと言えます。上記(2)の議論ができる以前の相手だったわけですから。

ですから、「10人のうち1人が完全否定派で、残り9人がそれよりマシ」などという構図は、「ぼやきくっくり」において存在していなかったし、一般的な南京事件論争においてもほとんど存在していません。



この意味で、fromさんによる九郎さん批判、つまり九郎さんの手法を「10人のうちもっともアホな1人だけを叩いた手法」であるかのように批判した先日の主張は、誤った批判だと思います。




ちなみに、「南京での残虐行為を「南京事件」として特異化できるか」という論点については、あった派の入門書には全て言及されています。ですから「あった派」の論客にとってはそれはデフォルトな知識で、ただ否定派がその次元で議論をふっかけてこないため、論争点になってこなかったというのが実状でしょう。

ですから、そこが論点に浮上した場合でも、「あった派」の人間は慌てないでしょう。現にApemanさんが南京事件の特異ポイントをすぐにまとめてエントリされたように、南京事件研究においてはその論点での議論や考察が蓄積されているからです。

fromさん個人が「差分」について問題意識を持つことは、いいことだと思います(同時に、歴史修正主義言説の影響を無意識に受けているようにも思いましたが)。
しかし、九郎さんの「南京厨」批判やはしげたさんの論戦に「差分」の次元に関する言及がないことを理由に批判したり「突っ込みどころ満載」などと述べるのは、お門違いだと思います。
「差分」がわからないという表明は、九郎さん批判、はしげたさん批判を絡めないかたちで、行われるべきだったと思います。

(バッテリー切れのため続きは後送)


続き

good2ndさんのブクマコメントに言い尽くされている気がします。
fromさんも「それまでの議論を知ろうという努力もなしにメタで首に突っ込む」ことの危うさに気付いたのではないでしょうか。

2008年01月05日 good2nd 南京事件
それまでの議論を知ろうという努力もなしにいきなり「メタで」首を突っ込むって点では典型的・象徴的な事例だと思います。ネット上の「論争のように見えるもの」が効果としてどう現われてしまうか、というか