史料無視で成立する東中野氏の新刊『「百人斬り競争」の真実』

某所にブックレビューを書いたので転載。

『南京「百人斬り競争」の真実』
東中野 修道著
ワック発行


題名から、百人斬り競争に関する「真実」を書かれていると期待した人もいるでしょうが、その期待は肩すかしに会うでしょう。143頁に「両少尉が「俘虜および非戦闘員の連続屠殺」や「据えもの斬り」をしなかったという明らかな証拠はなかった。両少尉が「俘虜および非戦闘員の連続屠殺」や「据えもの斬り」をしたという明らかな証拠はなかった」と述べているとおり、両少尉の虐殺行為の有無に対しては「どちらとも断言できない」というスタンスがとられているからです。

さて、この本の基本的な問題点は、最近発見されたり公表された史料や論文が無視されていることです。
議論となっている「東京日日新聞」記事とは別に、N大尉が友人に宛てた手紙が「大阪毎日新聞鹿児島版」に掲載されたこと、その手紙には「南京入城まで百五斬つた」と書かれていたこと、「N大尉が地元の小学校で講演し据えもの斬りの事実を動作を交えて披露していたこと」を裏付けた秦郁彦氏の論文日本大学法学会『政経研究』42巻4号)、「 N、M両名が農民殺害までエスカレートさせていた」ことを記した日本軍兵士望月五三郎氏の手記靖国神社偕行文庫所蔵)、これらはこの本では触れられていません。(秦論文・望月手記については巻末の参考文献リストに掲載されていますので、著者は読んだ上でスルーしたようです)
おそらく、著者は「両少尉が虐殺した可能性を示唆する史料や論文」を読者に紹介したくなかったと思われます。そのため重要な史料や論文の「隠蔽」を行ったのでしょう。結果、まともな「検証」とは言えない内容に終わっています。

大阪毎日新聞鹿児島版
http://homepage3.nifty.com/m_and_y/genron/data/nangjin/hyakunin/oosaka-mainichi.htm

秦氏論文
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20061223

望月五三郎手記
http://homepage3.nifty.com/m_and_y/genron/data/nangjin/hyakunin/mochiduki.htm