南京事件と「知的怠慢」

映画「Nanking」をめぐって多くのブログエントリが出されているのだが、もう少し下調べしてからエントリしたら?と言いたくなるものが少なくない。その典型として、川上(Soreda)さんの次のエントリを紹介する。*1
http://d.hatena.ne.jp/Soreda/20061228

その映画祭の予告?によれば、日本軍の侵略により20万人のチャイニーズが殺され何千というチャイニーズがレイプされた第二次世界大戦で最も悲劇的な事件で、西洋人の驚くべき英雄的行為が25万人の命を救った、というプロットらしい。
http://peacejournalism.com/ReadArticle.asp?ArticleID=12313

問題は次の部分。

いつの間にか人数が30万から20万になったのは、南京の当時人口からすれば云々という批判に対する防御だろうか。簡単に10万オーダーで数値が変わるというのがさすが大国か。わからないのは西洋人が25万人を救ったという、そのはどういう経緯を言ってるの?

なんでここまで知的怠慢になれるのだろうか。
川上(Soreda)さんは、南京軍事法廷が30万説で、東京裁判が20万説であるという基礎知識を欠いていたようだ。しかしそれ自体を責める気はない。問題は、ちょっと調べれば「20万説」が東京裁判に由来するであろうということが判るにもかかわらず、最低限の下調べすらしなかったことだ。

結果として、基礎知識の欠如をさらけ出したままのプアな発言が続く。

しかし最近の朝日経由人民日報では、「大虐殺で同胞30万人が犠牲になってから69年目に悲劇を振り返るのは、」と30万人説堅持の模様。足並み乱れてます。
南京大虐殺の生存者、日本で講演へ
http://www.asahi.com/international/jinmin/TKY200612050265.html

ぶっちゃけ、どのみち日本を降伏させたのはアメリカなんだし、そこに焦点をあてて何もそんな小さな数字ではなくて、5億人を救ったぐらい言えば?など思うがさすがにそれはでかすぎだと思ったのだろうか。

連合国のアメリカで作られた映画が、東京裁判の「20万説」をベースに考えるのはまったく不思議ではないし、中国の蘇さんが南京法廷の「30万説」をベースに考えるのも同様。これを「足並みが乱れている」と評するのは無知の極みである。
しかしより醜悪なのは以下の部分だ。

このへんはきっと、では資料はどうなのか、などという取り組みではなくて、映画の企画会議で、どのぐらいならいいと思う?、リアルな感じがする? どうかなぁ、それはちょっと多いよ、じゃあボトムラインはこのへんで、とか話し合って、それで決まった数字をサポートするように全体を拵える、みたいな成り行きなのかなと想像してしまう。

ちょっとでも真面目に下調べをしていたら、上のような「想像」をすることもなかったし、想像した後にでも真面目に下調べをしていたら、この「想像」が妄想に過ぎなかったことに気付き、エントリに掲載することもなかったと思われる。

川上(Soreda)さんに限らず、なんでこのような軽率な言動が頻発するのか。それは、南京事件を「反中」のモチーフでしか了解せず、南京事件そのものについて基礎的な理解しようという努力を怠ったまま、軽率に語ってしまう傾向があるからではないか、と昨年と同じようなことを書いて今年も終わってしまいそうですね。

*1:煙さんのhttp://d.hatena.ne.jp/kemu-ri/20060801を読んで以来、川上(Soreda)さんに理性的思考を期待するだけ無駄、だとは判っているのだが、