リテラシー能力の低さについて

このところいくつかのブログ上でhttp://www.youtube.com/results?search=nankin&search_type=search_videosという映像が紹介されているのだが、

「アジアの真実」でも紹介されている。
http://ameblo.jp/lancer1/entry-10013478532.html



しかし、その映像を根拠とする「アジアの真実」のブログ主さんの推論を見ると…杜撰というしかない。

この映像は日本側の記録映像であり、この映像自体が「南京事件」を否定する直接の証拠とはなりません。しかし、私はこれを見る限り、南京市民が全滅以上(当時の人口20万人に対し虐殺されたとされる市民は30万人)の大虐殺が行われたとは到底思えません。


本論からはずれるが一応指摘しておくと、中国側が主張する「30万」は、市民だけではなく不法殺害された兵士を含めて「30万」であるし、南京市民が「全滅」と主張している人は、私の知る限り南京事件論争の中でいたためしがない。30万説を主張する人も「事件後の生存者25万〜30万」という認識に異議を唱える者は皆無である。(おそらく30万説の人は「事件前人口は50万」という認識だと思われるが未確認)。

また、南京事件は、燕子磯から中華門外までの南京市ほぼ全域で起こったとされる事件ですが、これに対し「当時の人口20万」というのは、南京市の一部である城内のそのまた一部である安全区の人口にすぎない。http://www.geocities.jp/yu77799/jinkou.htmlを参照。


さて本論に戻ると、

これを見る限り、南京市内は非常に平穏を保っており、市民も落ち着いた状態であるように見えます。難民救護所などが設置されており、占領地における市民に対する対応も問題があるようには見えません。

「これを見る限り、南京市内は…」というが、そもそも映像には「全ての南京市内」地区の状況が映されているというのだろうか。
「南京市全域」の状況が、こんな短い映像で把握できるわけがない、という「当たり前」の事柄が留意されていない。

そもそも映像がどの地区を映したものか特定できないが、南京事件は、多くは城外で殺害が行われたとされるのだから、最低限城内と城外の双方の映像がないと話にならない。

例えていえば、東京大空襲直後の麻布や上野の映像を根拠に「東京市は特に焼け野原になった様子はなく」という推論がなされたら、というケースを考えるといいだろう。東京大空襲隅田川岸の下町で多くの人が殺されたわけで、それに対し山の手の映像を見て「東京大空襲があったとは到底思えない」という主張がなされたら…と考えたら、lancer1さんの推論がどれだけ安直であるが伺い知れると思う。

また日本軍の統率も乱れておらず、各個の兵が暴走できる状態ではなかったようにも思えます。 


これも上に同じである。
しかも松井大将は、当時の日本兵について以下のように認識していた。

 慰霊祭の直後、私は皆を集めて軍総司令官として泣いて怒った。その時は朝香宮もおられ、柳川中将も方面軍司令官だったが。折角皇威を輝かしたのに、あの兵の暴行によって一挙にしてそれを落してしまった、と。ところが、このことのあとで、みなが笑った。甚だしいのは、或る師団長の如きは「当り前ですよ」とさえいった。(花山信勝『平和の発見』P229)

上海附近作戦の経過に鑑み南京攻略戦開始に当り、我軍の軍紀風紀を厳粛ならしめん為め各部隊に対し再三留意を促せしこと前記の如し。図らさりき、我軍の南京入城に当り幾多我軍の暴行奪掠事件を惹起し、皇軍の威徳を傷くること尠少ならさるに至れるや。「支那事変日誌抜粋」

つまり、映像には、松井総司令官の述べるところの「一挙にして皇威を落とす」ような「兵の暴行」や、「幾多の」「暴行奪掠事件」が映っていないというだけの話である。
この他、http://www.geocities.jp/yu77799/gunjin.htmlを見れば、日本軍中枢の認識が「日本兵軍紀が乱れていた」認識していたことは疑いない。


にもかかわらず「アジアの真実」は以下のように述べる。

最初にも書きましたが、これは南京事件がなかったことを証明する映像ではありませんが、当時の南京の様子を記録した実際の映像であり、南京事件を考える上で非常の貴重な手がかりであることは間違いありません。


これだけで「貴重な手がかり」と判断してしまうことの安直さ、リテラシーの低さは大きな問題だと思う。

追記;mujinさんがhttp://d.hatena.ne.jp/mujin/20060612でより突っ込んだ批判をおこなっています。