まず「軍慰安所」自体を問題とすべきです(eichelberger_1999さんの発言を紹介)

安倍首相の「従軍慰安婦問題で(軍の強制連行への直接関与など)強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実」発言が問題になってきていますが、ここでは2003年の指環さん、eichelberger_1999さんの発言を敢えて紹介しておきたいと思います。いずれも「思考錯誤」掲示板からの転載です。

まず、指環さんの「従軍慰安婦」問題とは“強制連行”問題か?という投稿。
http://t-t-japan.com/bbs/article/t/tohoho/7/xbuqrf/xbuqrf.html

 ネット上のいくつかの掲示板で「従軍慰安婦」問題を議論していると、必ずと言って良いほど、「従軍慰安婦強制連行説ですね」とか「あなたは従軍慰安婦の強制連行はあったと主張されるのですね」と、否定論の信者の側から言われます。
 私は、これまで「従軍慰安婦強制“連行”説」という言い方はしたことがないし、むしろ、「従軍慰安婦」問題の核心は強制連行の有無ではない、と強調してきたつもりです。ところが、「従軍慰安婦」問題と言えば、強制連行問題であると否定論信者は思い込んでおり、強制連行と言えば吉田清治証言、この吉田清治証言はウソなのだから強制連行はなかった、従軍慰安婦は日本の国家犯罪ではない、と殆ど全て、このパターンで否定論を展開してくることになります。


これに対するレスとして出された、eichelberger_1999さんの
http://t-t-japan.com/bbs/article/t/tohoho/7/xbuqrf/nlaqrf.html#nlaqrf

 初めまして。eichelberger_1999と申します。「強制連行の有無」は「従軍慰安婦」問題の核心ではないという指環さんの主張には、私も賛成です。
 ただし、「「従軍慰安婦」問題の中心が強制連行ではなく、軍慰安所における強制である」との結論にいたる前に、考えなければいけないもう一つ大きな問題があると、思っています。その点で意見が異なります。もちろん、その結論そのものを否定するわけではありませんが、その前に検討を要する問題があると考えているということです。

 それは、指環さんの表現をかりて言えば、かりに私人には「性の売買」を行うことが許されるとしても、国家・政府機関がそれをするのは許されることであろうか、という問題です。加藤尚武氏の倫理学の概念をかりて言い直せば、私人には許される愚行権が政府にも認められるか否かということです。
 私がYahoo掲示板で再三あげた例をもちだせば、

1.ソープランドが不特定の私人を相手に「性の売買」をおこない、国家機関である風俗警察がそれを規制している。
2.国家機関である警察(あるいは自衛隊)が隊員のための慰安施設(=福利厚生施設)としてソープランドを設置し、そこで「性の売買」を行わせる。

 この1と2では全然意味がちがうということです。

 1の形態での「性の売買」を認める人でも、おそらく2の形態での「性の売買」を容認する人は現在においても、過去においても非常に少数だと私は考えています。軍慰安所とは2の形態の「性の売買」にほかなりません。

まず問題の1938年の陸軍省の通牒ですが、これは陸軍省副官が北支方面軍及中支派遣軍参謀長に宛て発出した「軍慰安所従業婦募集二関スル件」という題目のついた依命通牒です(1938年3月4日付)。宛先はいずれも中国に派遣された日本軍司令部の参謀長です。

 この通牒の趣旨は以下のようなものです。

 中国に在る日本軍が軍慰安所を設置し、そこで働く従業員(=慰安婦)を確保するために募集業者を日本内地に派遣して募集にあたらせたところ、日本内地でいろいろと問題が生じた(具体的には、今般軍が慰安所を作って売春をする女性を募集することになったのだが、いい儲け話なので、是非働いてみないかと、おおっぴらに軍の名前をあげて女性を勧誘する業者や、専門の募集業者ではなくて従軍記者や軍隊に慰問にきた一般人が女性を勧誘したり、なかには誘拐犯と見なされて警察の取り調べを受けたりする業者が出てきた)。
 このまま放置して、軍が慰安所をつくって売春をさせる計画を立てていることがおおっぴらになると、軍の威信をはなはだしく傷つけることになるので、今後内地に業者を派遣して慰安婦を募集させるに際しては、軍の威信を傷つけることがないように、人選を慎重におこない、軍との関係を吹聴したりしないようよく言い含め、さらに募集を行う内地の地元警察ともよく連絡をとって募集業務にあたよう、厳重に注意しなさい、というものです。

 ですからこれは、小林よしのりの言うように、軍が悪徳業者の取締を命じたことを示す通牒などではありません。同時にこの通牒から「1938年以降も、朝鮮・台湾では誘拐まがいの「慰安婦」強制連行が行われていた可能性が高い」と推論することもできません。それをやると小林よりのりとどっこいどっこいの誤りを犯すことになります。

 この通牒は、軍が業者をして慰安所の従業婦を募集にあたらせる際には、軍との関係があからさまにならないように注意しなさいという指示ですので、軍が慰安所を作り、慰安婦の募集を業者に命じておこなわせていたことを示す動かぬ証拠となったわけです。


なお、「強制連行」問題に関するeichelberger_1999氏の発言は、2005年に煙さんが紹介している。
http://d.hatena.ne.jp/kemu-ri/20050819